教会からのお知らせ

教会を建てる テトスへの手紙第一章 (月報『菊名』No.59より)

テトスへの手紙はⅠ、Ⅱテモテへの手紙とで牧会書簡と呼ばれています。この三文書は牧会上の注意・勧告からなっていて、一つのまとまりを為しています。これらの手紙は一八世紀までは真正のパウロ書簡として広く承認されてきましたが、一九世紀からそれに否定的な意見が出てきました。それはこの文書の用語・文体から、また歴史的背景からパウロ後の時代のものだと考えられるというものでした。使徒言行録でのクレタ滞在はローマへの護送の途中に立ち寄っただけであり、いくつもの教会を建設するだけの伝道はなし得なかったろうということです。それが可能となるためには、使徒言行録に記載されているローマでの囚人生活が割と自由なものであったと記されていた通り、後には伝道旅行も可能になったということが考えられるし、その教会に側近の者に手紙を書かせたと推測することもできます。事実、この手紙の受取人のテトスもⅡコリント書、ガラテヤ書、Ⅱテモテ書に名前が記されていますが、使徒言行録には全く出てきません。

テトスは、ガラテヤ書によればギリシア人で、パウロに同行してエルサレムの使徒会議に出席しています。またⅡコリント書では、パウロとコリント教会との関係を修復し、さらにエルサレム教会援助のための募金活動を行っていました。このようにテトスはパウロの同労者として信任を受けて働いていました。そのテトスに、クレタで町ごとに長老を立てるように命じているのは、一緒に伝道活動を行い、そこに立てられた教会を指導するために、テトスをクレタに残したからでしょう。

パウロはキリストに立てられた使徒として、多くの信徒を生み出すとともに、信仰の一致を保つよう教え導く為に心を砕きました。特に誤った教えに惑わされないようにしなければならなかったのです。そのために長老を立て、その指導によって教会を整え、育てることを指示しています。何のためにその組織作りが必要なのかというと、教会の隅々に至るまでキリストの血が通い、神の恵みが皆にいきわたるように、生きた組織が作られなければならなかったのです。

宗教改革以来、教会は三つの点に立脚して立てられていると言われています。その三つとは、正典と信仰と、職制です。正典は旧新約聖書六六巻の聖書です。信仰は、歴史上の諸教会が言い表してきた信仰告白に示されています。そして職制とは、目に見える地上の存在としての教会が信仰共同体として現実に運営し、統治する制度のことです。どのようなところに私たちの教会が、正典、信仰、職制の三つの点を定めているかをしっかりと自覚することが必要なのです

 

愛澤 豊重

(菊名 2020年9月号  No.59掲載)